【はじめに】近年、わが国では①少子高齢化が進み、②いわゆる地方の私立大学が定員割れの危機に直面しています。そこで、多くの大学が③スポーツ推薦というかたちで優秀なアスリートをリクルートし、学生数を確保しようとする動きが盛んです。しかし、④入学面接時にはやる気を示していた学生が、入学後に進路変更や目標喪失などでクラブ活動へのモチベーションを失い、退部や中途退学につながるケースも珍しくありません。加えて、⑤学生が辞めたい原因がクラブ問題と処理されますと、指導顧問だけでなく部員本人を含め大学全体で解決を図る必要があり、その過程で⑥度重なる退部が続くクラブはブラック企業ならぬブラックサークルになりかねません。
一方、特待生としての活動は保護者のご理解と協力なしには成り立たず、⑦高校や高校生、保護者に対してリクルート活動を展開する大学側の責任は重大です。現場でリクルート活動に取り組む身分として⑦大学が用意したパンフレットや説明会だけでは高校生や保護者に十分に響きにくく、これまで10年以上取り組んできた高校生バスケットボール選手に対して「星槎道都大学男女バスケットボール部から案内する以上、どんな学校・社会・人間教育の価値を提供できるのか?」が強く求められます。⑧そこで改めて、大学のクラブ活動が持つ“教育的価値”について重要視されるべきことを考えます。
おかげさまで⑨本学バスケットボールクラブでは、直近5年ほどは新入生のリクルートに成功しているものの、それは単に人数を集めることだけが目的ではなく、学生たちに「社会で生き抜く力」を身に付けさせるための最善策の一つと捉えています。⑩入学させたら終わりではなく、卒業後も社会の中で活躍できる人材を育成するという観点が最も大切だと考えております。
保護者や在校生、OB、高校時代の恩師の皆さまに向けて、上記の問題を整理しながら、クラブ活動に期待される教育的価値について改めて考えて発信させていただきます。
1. 少子高齢化と存続課題
少子高齢化の影響で大学への進学希望者数は年々減少し、特に地方や新設大学の定員割れが深刻化しています。この状況下で優秀なスポーツ特待生を確保しようという動き自体は、大学として“生き残り策”の一つとして理解できます。しかし、バスケットボールのみしか考えられない指導者と選手の関係だけで入学をゴールと捉えてしまうと、お互いのモチベーションを持続させられず、結果として退学、休部、クラブ退部を繰り返し、結果として大学の信頼を損ないかねません。
2. スポーツ特待生制度の功罪
スポーツ特待生制度があることで、学生は学費負担を軽減でき、大学側も選手や将来の指導者の育成につなげられるといったメリットがあります。一方で、本人の将来像が定まっていない状態で入学し、入学後に興味や目標が変わってしまうことも珍しくありません。また、特待生が退部すると「なぜクラブ指導者がきちんとフォローしなかったのか?」と責任問題が発生し、大学およびクラブの信頼が低下してしまうリスクを抱えています。
3. “辞める部員”が癖になるクラブの社会的リスク
スポーツ特待生として入学した学生が1年以内に辞めるケースが続けば、そのクラブは「すぐに辞めてしまう部員の多いクラブ」というレッテルを貼られます。これは同時に、指導体制の不備やマネジメントの甘さ、さらには大学全体のガバナンス不足として、社会から厳しい目を向けられる原因にもなります。OBや保護者、高校の恩師にとっても「大丈夫だろうか…」と不安を抱かせ、リクルート活動において大きな障害となりかねません。
4. 高校・保護者への責任とリクルート活動
特待生として入学する学生は、高校や保護者からの期待を背負っています。大学側が誠実に情報提供を行い、パンフレットや説明会だけでは伝わりづらい「クラブが大切にしている価値観」「どのような指導体制なのか」「卒業後のキャリア支援」などを具体的かつ丁寧に説明することが肝要です。特に、保護者が安心して子どもを送り出せる環境整備と、学生本人が未来を見据えた学びができるカリキュラムとの両立が重要です。
5. クラブ活動の“教育的価値”とは
大学のクラブ活動は、単なる「勝った負けたと競い合う」競技の場ではありません。仲間とのコミュニケーション、目標を達成するための計画立案、責任の分担、挫折を味わった後のリカバリー方法など、社会に出て必要とされる多くの力を育む場でもあります。試合で勝った・負けただけが素晴らしい人、スタメンでエースが努力した人という評価基準ではなく、「自ら考え、行動し、チームと成果を共有できる人材」を育てることが教育機関としてのクラブの使命といえるでしょう。
さらに、近年は学生自身が試合の企画運営や、地域に開かれたイベントなどでボランティア活動を行い、より幅広い経験を積む事例も増えています。これは社会へ飛び立つ前の“実践型トレーニング”として非常に有益です。
6. 顧問やリクルート担当者の無償ボランティアの意義
大学のクラブ活動を指導する顧問やリクルート担当者は、必ずしも報酬を得ていないケースが少なくありません。むしろ無償で学生のために時間を費やしている方も多いです。指導者の目的は、ただ単に選手として活躍させたいというだけでなく、学生が「人間的に大きく成長すること」に重きを置いています。社会に出ても活きる“人としての土台”をしっかりと築かせるため、日夜努力を惜しまない姿勢こそが、大学のクラブ活動の支えになっています。
7. 直近5年のリクルート成功要因と今後の展望
本学バスケットボールクラブでは、直近5年は新入生のリクルートに大きく成功しています。その背景には「特待生制度=単なる勧誘ツール」という捉え方を捨て、「入学後にどう育成し、どう社会へ送り出すのか?」という教育的視点を強化してきた点があります。具体的には以下のような取り組みを重視してきました。
キャリア教育や進路相談との連携大学のキャリアセンターや就職支援部署との連携を密にし、クラブ活動と将来のキャリアを結びつけるサポートを行う。
社会貢献活動や地域連携の機会創出地域のバスケットボール教室やイベントへの参加、ボランティア活動などを通じて、社会との接点を増やし、「自分が社会にどう役立てるか」を考える場を提供。
指導者・OBとの結束強化大学OBとの交流、地域クラブチームとの練習試合や全国大会を利用しての関東地区大学との交流会やプロの指導者とのコラボレーションを実施し、多面的なアドバイスや支援を受けられるようにしている。バスケットボールというプラットホームを軸としてクラブと企業とのパイプを強化する。
これらの取り組みにより、学生たちは「卒業後の道筋」を意識しながらクラブ活動に専念するため、高いモチベーションを保ちやすくなります。
8. 「入学させたらお終い」ではない
学生を入学させることが目的ではありません。むしろ、「入学後こそが本当のスタートライン」という視点を持ち続けることがクラブの責務です。クラブ活動は、大学が提供する総合的な教育プログラムの一部として位置づけるべきであり、社会に通用する知識・技術・人間関係スキルを培う場となるべきです。
そのためには、顧問やリクルート担当者、大学の教職員、OB、保護者、高校の恩師など、多方面の協力体制が欠かせません。さまざまな立場の大人たちが手を取り合い、学生一人ひとりの成長をサポートすることこそが、大学教育の本来の姿でしょう。
新卒カードの重要性を理解する
大学に在籍し、就職活動を経て採用を勝ち取った学生には、日本の企業文化の中で非常に価値の高い「新卒カード」というステータスが与えられます。これは、将来のキャリア形成においてきわめて有利に働くことが多いのですが、実際にはこの価値を正しく理解していない学生も少なくありません。「自分のスキル不足を知らないまま新卒カードを安易に手放す」ことで得られる代償は、想像以上に大きいのです。
新卒採用と中途採用の違い
一般的に、新卒採用は企業側が「ポテンシャル採用」という形で、まだ社会的経験の浅い学生を一から育成する枠組みがあります。一方で、中途採用においては「即戦力として働けるだけの専門性や経験」が重視されるため、「とりあえず転職」という考え方では条件やポジション面で新卒採用ほどの優遇は期待しにくいのが現実です。こうした背景から、十分な準備やスキルがないまま早期に大学やクラブ活動と同じように辞めてしまった場合、その後に待ち受けるキャリアの道は厳しいものになりかねません。
起業や転職に必要なこと
将来的に起業や転職を考える場合でも、大学時代に学んだ知識、人脈、クラブ活動や学生生活で培った実践的なスキルが大きく役立ちます。特に起業では、資金やビジネスモデルだけでなく、社会人としての基礎力や信頼できる仲間の存在が欠かせません。もし大学やクラブ活動を中途でやめるのであれば、それを上回るだけのAI駆動型の情報収集力、AI情報分析力、専門性や実績、資金計画、そして人脈など、しっかりとした“次のステップ”の準備が求められます。何の準備もないまま「新卒カード」を失ってしまうと、のちに大きな遠回りや苦労を強いられることも決して少なくないのです。
キャリアコンサルタントとしてのアドバイス
キャリアカウンセラーや就職支援のプロたちは口をそろえて「若い時期は無限の可能性がある一方、決断力やリスク管理の甘さから、せっかくの新卒カードを捨ててしまいがち」と指摘します。だからこそ、大学時代には自分が将来どのような道を歩みたいのかを早い段階から考え、進むべき道の選択肢を明確化しておくことが重要です。
大学のキャリアセンターや就職支援プログラムを積極的に活用し、情報を収集・分析する。
クラブ活動やゼミ活動、ボランティアなどで社会人基礎力(コミュニケーション力・問題解決力・マネジメント力など)を身につける。
将来的な転職や起業を目指すならば、資金計画や人脈形成、専門スキルの向上を大学卒業後も計画的に永遠とアップデートを行う。
こうした地道な積み重ねが、自分のキャリアを本当の意味で豊かにしてくれます。大学やクラブ活動を通じた学びが、「新卒カード」とあわせて社会へ飛び立つ力となるのです。
9. 保護者・在校生・OB・高校恩師へのメッセージ
保護者の皆さまへお子さんが大学でのクラブ活動を通じて得る経験は、単に競技力向上だけではありません。組織の一員としてリーダーシップやコミュニケーション能力を養い、社会人として必要な自己管理能力や責任感を身につけていきます。ぜひ大学の方針や指導体制、クラブの活動理念を理解し、学生の未来へのサポートを共に担っていただければと思います。
在校生・特待生の皆さんへ入学後、部活動や学業、アルバイトなどで忙しさを感じることもあるでしょう。しかし、今がまさに自分を成長させる最高のチャンスです。視野を広げ、学内外のさまざまな人と関わる中で、将来に活かせる「社会で生き抜く力」を磨いてください。
OBの皆さまへ自身が経験してきた大学のクラブ生活を振り返り、後輩たちにできるサポートはありませんか? 交流戦や勉強会でのアドバイスはもちろん、OBネットワークによる就職支援や情報提供など、先輩方の知見や人脈は後輩にとって大きな財産です。
高校時代の恩師の皆さまへ学生の高校時代をよく知る恩師の方々が、大学の教育方針やクラブのビジョンにご理解いただくことで、さらに良い形での進路アドバイスや協力体制が生まれます。高校と大学が連携して情報を共有し、学生を中心に据えたサポートを強化していければ幸いです。

写真は5年前(当時高校3年生)に出会った本学4年生です。 男子は悪夢の伝統であった部員数が入学時の半分以下になる負の連鎖を断ち切り、北海道最大の部員数を誇るクラブとなるため下級生と協力し合い、上下関係に下手な権力・圧力を無くし4年間成し遂げる背中を見せました。 女子は一度廃部した女子バスケットボールクラブとして3部から復活スタートして全てを0から作りあげました。北海道最大の部員数を誇るクラブとなるために下級生と協力し合い、上下関係に下手な権力・圧力を無くし4年間成し遂げる背中を見せました。 そんな男女4年生がまもなく卒業式を迎え、いよいよ「社会の荒波」にチャレンジします。
まとめ
大学入学は“スタートライン”
クラブ活動は“社会人基礎力”を培う教育的プログラム
新卒というカードはキャリアの選択肢を大きく広げる
中途退学や早期転職には明確なビジョンと十分な準備が必要
キャリア形成は自ら動き、必要な情報やスキルを得る努力が不可欠
顧問やリクルート担当者、教職員、OB、保護者、高校の恩師といった多方面のサポート体制を活かしながら、大学生活を充実させ、新卒カードをはじめとする大切なアドバンテージを最大限に生かしていただきたいと思います。社会に出てからも通用する人材として、ぜひこのかけがえのない“大学時代”を大切に過ごしてください。
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